ザイルリードにはタイプWとタイプSの2種類があります。Wとはダブル・二重という意味、Sはシングルという意味です。どのような違いがあるかというと、ロープを二つ折りにして二つの先端にレバースナップを2個装着したのがW、1本のロープにレバースナップを1個装着したのがSになります。
同じロープで、WとSがあります。(厳密にはロープ径11mmにはWはありません)実は、ドッグリードの製造・販売を再開する構想にはタイプSはありませんでした。一昨年夏にクラウドファンディングに挑戦しましたが、その際の出品はロープ径10mmのタイプWの1世代前の仕様のリードでした。
WとSの違いは安全性を重視したリードがW、快適性を重視したリードがSとなります。製造・販売を検討していた時に安全性と快適性の両立は難しいとわかったからです。きっかけは知人が飼っているグレードデンのローズと接したことです。グレードデンはご存じの通り大型犬です。だけれども、しつけがしっかりされ、リードウォークを完全にマスターしているローズにはタイプWは安全性が過剰なのです。かといって、リードが離れることはとても危険。そこでタイプSの試作品をモニターしていただきました。プロトタイプとして散歩で使っているかなり太い革巻きのリードをお借りしました。そのリードをザイルロープで再現したのがタイプSの原型です。すでに1年ほど使っていただいていますが、不具合は全くありません。
あ!そうではなかった。初期の試作品には不具合がありました。ロープの末端処理です。初期の試作品を作成した時点では、ロープを切断し、中芯を抜いて縫製する方法は同じですが、末端を熱処理していたのです。この方法はザイルロープの末端処理方法としては一般的な方法なのですが、熱で繊維を溶かすため、末端に硬い部分が残ります。その手触りがよくないというご意見をいただきました。この末端処理方法は再初期のザイルリードから採用していた方法なので、「このリードではお金は出せない」とまで言われ、正直途方にくれました。熱処理以外の方法を色々と試したのですが、いい方法は見つかりませんでした。知人も処理方法を縫製をしている方に見てもらってくれたのですが、一般的な縫製では処理は不可能という結論。縫製部分はロープの中では動く部分なので、接着剤などでは固定できないのです。最終的に思いついたのは「処理をしない」という処理方法でした。熱処理して縫製した後に末端部分を切り落とす方法です。繊維はほどけてふくらんでしまうのですが、縫製した部分がほどけることがないことも確認でき、再度、知人に見てもらったところ、「これは末端処理を忘れたように見える」ので、販売については難しいという意見だったのですが、とにかく使ってみてほしいとお願いしました。結果としては、手触りが滑らかで快適というご意見をいただき、末端処理方法が決まったのです。ザイルリードには「ロープの末端は熱処理していないので、未処理に見えますが、手触りを重視したもので問題はありません」というタグをつけているのはそのためです。最終的にはタイプSだけではなくタイプWも同じように処理をしています。
タイプWとタイプSは同じザイルロープとレバースナップを使っていますが、全く違うドッグリードです。タイプSでは先端のレバースナップ以外に金属パーツを装着せず、ロープと持ち手を滑らかにつないでいます。そのことで、飼い主と愛犬の意思疎通がダイレクトになる設計です。手をつないで散歩する、イメージが近いと思います。
愛犬が幼いころから元気いっぱいにリードを引っ張る青年期は安全重視のタイプW、ある程度年齢を重ねて引っ張る力が弱くなってきたら快適さ重視のタイプSに切り替えるという使い方が理想的かと思います。かつての愛犬くろまるで試用していたザイルリード試作品はタイプWだけでした。徐々に年老いていったくろまるにタイプSを使ってやれなかったことを残念に思っています。